青猫三題噺3「保健室・ケーキ・リボン」

涼子は、同じ保健委員のスエハラくんに恋していた。

月に一回、保健だよりを作るときが涼子の人生最大の幸せタイムだった。なぜなら、スエハラくんと保健室にふたりきりの時を過ごせるからだ。

その月に一回のチャンスでじわじわと距離を詰めつつスエハラくん情報を把握していった涼子は、なんとスエハラくんと自分は誕生日が同じということを知り、ダブルバースデー記念として、超気合いの入ったケーキをプレゼントすることにした。

だが。スエハラくんは約束の時間になっても保健室にやって来なかった。


スエハラくんを探しに行きたいけど、気合を入れすぎて持ってきてしまったいちごのホールケーキを置いていくわけにも、持っていくわけにもいかない。

どうしよう、まさかスエハラくん、約束を忘れて帰っちゃったんじゃ……と涼子がソワソワしているところに、親友の緋美(あけみ)が保健室に入ってくる。

「ちーす。涼子、絆創膏借りに来たよ~、ってすげえ! いい匂いするな~?」

入室していきなり、緋美はケーキに急接近してくる。

「いーから! はい絆創膏!」涼子は戸棚から絆創膏を5箱掴み取って緋美に渡す。

「ありがと! で?愛しのスエハラ王子はもう来たのかな?」
「う、うるさいなあ!」涼子は緋美の背中を押して保健室から追い出そうとする。

「ははは! 王子様は、もうすぐ来るってよー」緋美はウィンクして笑う。
「えっ!? 緋美、スエハラくんに会ったの?」
「あはは!それじゃあね!」


保健室から出た緋美は、そのまま正門へ続く廊下を進む。そこには、戸惑った表情のスエハラくんが立っている。

「ほら! 早く行ってやりなよ!」緋美はスエハラくんを急かす。
「あの子、寝ないでケーキを作ったんだよ?」

スエハラくんはうつむき、言葉を振り絞るようにして言う。
「緋美さん、僕が好きなのは――」

「バーカ!」

緋美はスエハラくんの言葉を遮る。
「私は好きな人がいるって、何度も言ったでしょ?」

つかの間の、けれど重苦しい沈黙。

「……どんな人なの?」スエハラくんは尋ねる。
「緋美さんが好きな人って、どんな人?」

張り詰めた、重苦しい空気を打ち壊すように、緋美は「あははは!」と笑う。
そして、「ごめん、秘密!」と言い、そのまま照れくさそうに走り出す。

「じゃあな! 約束通り保健室に行かなきゃ、絶交だからな!」と言って緋美は、そのまま逃げるように走り去ってしまう。

スエハラくんは保健室の方を見て、それから名残惜しそうに緋美が走り去った廊下を見やる。


ふと、廊下に何かが落ちていることにスエハラくんは気づく。
さっきまでは無かったものだ。
緋美が落としていったんだ、とスエハラくんは気づき、それを拾い上げる。

それは、普段の緋美は着けそうにない、
むしろ涼子が好みそうな、手作りのリボンだった。


夕暮れの下校道。
長い長い坂の下に広がる海岸線は紅に染まり、嫌になるくらい、美しかった。

慣れない刺繍で怪我した指の絆創膏を変えながら緋美は、沈んでいく夕日を見つめ、大好きな人の誕生日を心の中で静かに祝福した。


・執筆時間1時間くらい?


・お題は以下のサイトを参考にさせていただきました
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